八百屋が教える市場取引⑤〜相対取引と事前注文取引について〜

卸売市場(以下、市場)での仕入れについて、前回は市場内に卸売場と仲卸売場という2つの売場があること、卸売場での仕入れのためには買参権が必要であることをお話ししました。

 今回は、実際に市場での仕入れの仕組みがどうなっているのかを理解する上で重要となる”相対取引“と”事前注文取引“について解説します。

<セリの割合は1%以下?現在の市場取引について>

 市場の仕入れといえば買参人が混沌とする中で繰り広げられるセリ(競売)!買参権を取得後、そう意気込んでいたのですが、実際に仕入れをし始めると、

全然違いました・・・笑 

 現在の市場では、ひと昔前のセリ主体の取引から相対取引主体の取引形態へと移行しています。セリ取引と相対取引については下記の図を参照してください。

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 セリ取引では基本的に市場へ入荷してきた青果物を、卸売会社の担当者(イメージはオークション主催者)が仲卸事業者や売買参加者などの買参人(オークションの参加者)に対して競売(オークション)形式で販売する形態です。

 一方で、相対取引とは、卸売会社の各野菜やくだものの担当者(卸売会社では、キャベツの担当者、人参の担当者、トマトの担当者といった具合で、品目ごとに担当が分けられていることが多い)と買参人がそれぞれ個別に値段や数量などの交渉をして販売する取引形態です。

 ひと昔前は、市場仕入れというとセリ取引がメインだったのですが、現在の青果市場においては、相対取引が市場で行われる取引の約9割を占めています(都内の中央卸売市場だけをみるとセリの割合は全体の1%程度と言われています)。

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<市場取引のほとんどは前日に決まっている!?>

 また、現在の市場取引の特徴としてあげられるのが、事前注文(販売)取引の増加です。

 事前注文取引とは、バイヤーが前日までに卸売会社の担当者に対して翌日に引き取りを希望する品目(野菜や果物の種類)、数量、等階級(大きさなどの規格)を事前注文(前注文ともいう)という形で入れておき、予めそれらの商品を担当者が確保しておき、当日に商品の引き取りを行う取引方法です。(イメージとしては、絶対に欲しい商品を前日に予約しておいて、当日取り置きしておいてもらう感じです)。

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 事前注文取引と対になるのが当日取引で、これは入荷した商品を早い者勝ちで市場に早くきた買参人から買っていく方式です(市場での当日取引は、形式上午前1時からと一応きめられています)。

一昔前は市場取引の大半が当日取引として行われていたのですが、スーパーなどの量販店の台頭と共に取引の大半が前日にバイヤーからの事前注文という形で卸売会社の各品目担当者へ入り、取引(翌日に入荷する青果物の販売先)が前日までにすでに決まってしまう事前注文取引の割合が大きくなっています(ちなみに、弊社が買参権を持つ豊島市場では、市場に持ち込まれる荷物の約9割が前日にすでに販売先が決まっているらしいです)。

 事前注文取引と当日取引の(買参人にとっての)メリット、デメリットについては下記の通となります。

<事前注文取引のメリット>
○ 必要な商品を高い確率で仕入れ可能(荷物の入荷状況によっては、必ずしも前注文をしていたからといって仕入れられるとは限らない点には注意)

 ○ 商品が取り置きされているので、朝早く市場へ仕入れにいく必要がない(朝4時とかに毎日早起きしなくていいのは本当に嬉しい・・・)

<事前注文取引のデメリット>
○ 商品の価格が当日まで分からないので、想定していた仕入価格と大きく異なる(仕入値が高くなる)リスクがある

 ○ 当日取引と比べて基本的には価格(値引き)交渉ができない

<当日取引のメリット>
○ 商品(実物)を見て仕入れの判断ができる

 ○ 当日の需給(相場の)具合で卸売会社の担当者と値引き交渉ができる

<当日取引のデメリット>

○ 希望する商品を仕入れられないリスク(売り切れのリスク)がある

 ○ 当日取引は早いもの勝ちなので、朝早くに市場へ仕入れにいく必要がある

 まず、事前注文のメリットについて、スーパーなどの量販店は確実に商品を揃える必要があること(スーパーに行ったらトマトがないという状況はお店側にとって許されない)、仕入のロットが大きいこと(当たり前だが、仕入量が大きいほど確実に全量揃えるのが難しくなる)、特売やセールなど事前にチラシなどを刷って告知をしてしまっている商品については、当日に確実に一定量の商品を仕入れる必要があることなどから、量販店のバイヤーにとって、商品の安定的な仕入が何よりも重要なポイントとなります。

 前回のnoteでも述べたが、市場流通は基本的に仕入量が大きいほどボリュームディスカウントを受けやすいというのが事実ではありますが、その前提としては商品である野菜やくだものが十分に市場へ入荷していることがあります。

 逆にいうと、天候の影響を受けやすい青果流通において、天候不順などの理由から市場に入荷する商品の数が少なくなる場合、大きなロットの仕入れ量を確保するとなると逆に仕入れ価格が高くなることもあります。

 よく「仕入れ量の多いスーパーの方が八百屋さんよりも商品を安く仕入れられるのになんで八百屋さんはやっていけるの?」という質問を受けることがあるのですが、一つの理由として(他の理由はまた別のnoteで述べるが)、スーパーの場合、上記の通り、一定の数量を安定的に仕入れる必要があるため、市場の需給(相場)次第では、必ずしも仕入量が多いことがボリュームディスカウントに繋がる訳ではないことがあります(逆に品物が少ない中で一定量の品物を揃えようとするとコストが上がります)。

 また、仕入れ量を確保するために事前注文取引を使うと、事前注文取引は基本的に値引き交渉が難しくなるため(価格よりも確実な仕入れを優先する取引方法なので)、仕入れ価格も当日取引で価格交渉をガンガンかける八百屋さんに比べて高くなってしまうことも結構あります。

 話がそれてしまったのですが、量販店などのスーパーにとって商品の安定的な仕入は最重要事項であり、当日取引で仕入を行う場合、必ずしも必要な商品を必要な数量仕入れられないリスクがあります。そのため、量販店にとっては優先的に品物を揃えてもらえる事前注文取引が必要不可欠となるのです。

 もちろん、量販店だけではなく、八百屋などの青果店にとっても、欠品の許されない一般的な野菜や果物は必ず抑える必要があるため、最低限の品目と数量については、事前注文という形で注文を入れておくことが多いです。

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 一点注意が必要なのが、基本的には事前注文取引については、注文時点では販売価格が決まっていないという点です(決まっている場合もあることはあります)。

 これは前回のnoteでも書いた通り、卸売市場で商品を販売する卸売会社というのは、基本的には委託販売の取引形態をとっており、生産者や産地などの出荷者から翌日以降の入荷予定情報を取得した時点では、それらの荷物の値段はまだ決まっていないことが関係しています。

 卸売会社にとって、前日に買参人から注文を受けたとしても、(翌日に実際に入荷する数量は不確定であることから)その時点では翌日に入荷する品物の値段というものが決まっておらず、前注文を入れてきた買参人に対して販売価格は連絡できないことを意味します。

 実際の販売価格については、当日の朝の時点に実際に入荷した商品の量と注文の量(これを相場という)、当日取引の量などをベースに商品の値段が決定されます。

 よく当日の朝に担当者へ事前注文で仕入れた商品の仕入値を聞いても値段がまだわからない(まだ担当者の中で決まっていない)という通常で考えると意味の分からない状態が発生することもしばしばあります。

 すなわち、事前注文を入れた買参人にとって、事前注文取引は、当日蓋を開けてみると前日から相場が大きく高騰して、当日の仕入値がものすごく高い(でも注文はいれているので必ず注文した数量を引き取らなければならない)みたいなキツイ状況が発生するリスクを孕んでいます。

 ちなみに青果市場は天候などの影響をモロに受けるため、相場の変動は結構激しいです。

 例えば、前日の相場できゅうりが1ケース(5kg箱)2,000円だったので、それくらいの仕入値を見積もって買参人がきゅうりを10ケース前注文という形で卸売会社へ注文したとします。

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 しかし、いざ当日になってみると市場へのきゅうりの入荷量が激減していて、1ケースの値段が倍の4,000円になっている、なんてことも結構頻繁に発生します(当然、店頭のきゅうりの販売価格を急に2倍にすると全然売れなくなるのですが、10ケースも注文してしまっていることから赤字を出してでも品物が悪くなる前に販売してしまわなければいけなくなります)。

 上記では、現在の市場取引において”相対取引“と”事前注文(取引)“の重要性や割合が高まっていることを説明しました。次回は市場仕入れで非常に重要になる卸売業者との関わり方についてお伝えします。